自分の中でだけ恒例<ノった!そしてリハビリだ!そんな時だけアンプロンプテュ
■D灰/T*A-SS
場合によっては無くなってしまう彼らの括弧
∵There's (not) chemistry between us.
四角四面の硝子窓から円い月が見えた。
今宵は満月だ。
狼男が吠えヅラ晒して崖の上。鳴くだけ鳴いて、哭いた割には嬉々とした姿で女性を喰らう。想像上の怪物や現実世界での狼や悲劇を狙った喜劇の女性を狂わせる月の、あれはきっと正しい円形で、けれど真円ではないのだろう。
「アレン、おいで」
ふわふわとした真綿を思わせる彼の声音は甘い誘惑そのままで、けれどまかり間違って口に含んだところで決して甘さなど広がらない。
月に照らされる彼の手。
差し出すだけのそれは、しかし招く素振りの欠片もないものだった。
この男がヒトのふりをしたヒトでないヒトのように、形ばかりの偽りにしか見えず、残念ながら誰も彼をも騙す一種の手と思えてならなかった。そうでないとしたら、この男が求めているものは「Come!」の一言で駆け寄る犬、そんな方向の趣きかもしれない。
「そろそろ諦めを覚えてもいい頃合だと思いますが?」
そして虚偽ではあるが玲瓏な、きっと美しいのであろう冷え切った水底を思わせる月光に、明々白々シルクは映えて差し出されたままのそれは所在無げに映った。
「忍耐は美徳に数えられるべきものなんだろう?」
「場合によります」
「そいつは失礼」
恭しくハットを指先で抓み会釈をみせて“わらった”彼の手は、思いのほかアッサリと視界から消えたわけだ。が、そう見えたのはただの一瞬で、窓から差し込む光に区切られた煌々と眩い場所から、そっと出て行ってしまっただけのことなのだ。
どうせなら、そのまま戻ることがなければよいのにと思うアレンの目の前で、拍子外れの指揮者めいた手の動きはゆったりとしたリズムを僅か楽しんだあと、貞淑な絹の輝きを月光に晒す行為を再開する。
ほとほと呆れるほど懲りずに差し出され続ける指は艶かしい光沢が白く(やはり、「彼」には傷などつかないに違いない。布一枚隔てた中がどうかはわからないけれど、彼自身の見立てを裏切りはしないだろう)床に敷かれた月影はそれとは異なる輝かしさで白い。
幾晩と見てきた光景に、自分こそが讃えられるべきではないかと己の忍耐強さを半ば本気で思う。この場合、愁いた方が良いのだろうか。
口を吐いた溜息は判然としない。
周囲が青い影に沈む中、部屋の隅という隅は墨色の焼け付くような(妬け付くような?)コントラストであった。
もしくは鋭角と鈍角を埋めるグラデーション、ただの曖昧であるのかもしれなかった。
ネガとポジの対比、それ以外はどうでも良いことなのに。
「おいで」
ああ、彼の声ばかり、腥い。
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